内膜症や卵巣嚢腫など、婦人科系の慢性疾患は東洋医学では「瘀血」と捉えることが多くあります。
しかし、瘀血を生む背景は一つではありません。
今回の症例は、出産前からの気滞による瘀血に加え、出産後の気血の消耗(気虚・血虚)が深く関わっていました。
出産後に悪化した卵巣嚢腫、赤黒く粘度の高い経血、生理痛の再燃…。それらがどのように変化していったのか、施術と東洋医学的考察を交えて解説します。
◆主訴・経緯~出産後に再び悪化した生理痛と卵巣嚢腫
初産から2年ほど経っている30代前半の女性。
もともと生理痛が酷く、内膜症と卵巣嚢腫と診断され、妊娠前に一度卵巣の手術をしていた。
結婚後は不妊治療の末、無事出産し、出産後生理痛は比較的軽くなっていたが、だんだん元に戻ってきている。
念のため検査したところ卵巣嚢腫と診断。急激に大きくなっているからこのままだと手術したほうが良いと言われた。
1回目の術後、しばらく体調が優れなかったそうで、子育て中でもあるし何とか2回目の手術を回避できないかと来院されました。
経血は赤黒くドロドロで量は出産前より減っているとのこと。また、出産前の経血もドロドロで赤黒かったそうです。
◆観察・施術~経血が改善し、顔色に現れた「巡りの回復」
全体的に気滞と瘀血、つまり停滞があり、かつ元気が無いところが多数見受けられました。運動不足もあり、またパートの仕事と家事と育児の三足の草鞋の疲労、寝不足などもあるのではないかと感じました。
皮膚も張りと艶がなくカサカサした感じだし、顔色も悪い。ご自分ではお元気なつもりのようでしたが客観的には弱っていて心配になる感じ。実際出産で消耗した感じはあったそう。
基本的に、卵巣嚢腫や筋腫、内膜症などは東洋医学的に瘀血と判断しますが、その原因はさまざま。
この方の場合は、血を動かす元気が無くて停滞し、嚢腫や内膜症が悪化、痛みも出ていると判断して施術しました。
週に一回施術して2か月ほどで生理痛が改善し、赤黒くドロドロだった経血が、サラサラに。検査の結果、卵巣の大きさは現状維持状態で大きくはなっていないそう。何より数週間で顔色が良くなり艶と張りが出て、それは周囲の人たちにも言われたそう。自分でも元気になってきた感じがするとのこと。もともと元気が無いという自覚は無かったようでしたが、「元気になると元気でなかったことが分かる」というのもよくあることです。
◆考察~出産前は「気滞が強い瘀血」、出産後は「気虚が中心の瘀血」へ
この方の場合は、恐らくもともと停滞が強く、出産前から瘀血があって内膜症や嚢腫となっていた。出産とその後の育児で消耗し、さらに気虚に。そして血を動かす元気が無くなって瘀血となり、嚢腫が悪化したのだと思います。
もともと運動習慣がまったくなく筋肉量も少ないため、出産前は気滞と共に多少は気虚もあって内膜症になっていたのかもしれません。割合としては気滞の方が強かったのが、出産そのものと育児でも消耗。当院におみえになったときには気滞より気虚の方が主な原因で症状が出ていたのだと思います。
気滞を取って瘀血も改善させる施術
川の流れで例えると、この方の出産前は水の量は十分にあるけれど家庭からの排水やごみなどでドロドロで滞っている川。この場合はごみを取り除いたり家庭排水をきれいにするとドロドロがなくなり清流になります。それが気滞を取って瘀血も改善させる施術。
気や血を補う施術
出産後は、そもそもの川の水が少なすぎて、ごみや枯れ木、落ち葉などを流せなくなってドロドロになっている川、というイメージでしょうか。この場合は水の量を増やして流れを早くしてあげることが大切。東洋医学的には気や血を補う施術、ということになります。
この方の場合は気滞と気虚血虚どちらもありましたが、割合として弱っており、気虚や血虚の方が目立っていたため、そちらから施術をしました。弱っている人に気滞を取る施術をすると、逆に悪化することがあるためです。
鍼灸と生活習慣で悪化しにくい体へ
この方の場合、施術のたびに、お腹の硬さが改善。
運動をお勧めしましたが、もともと運動習慣もなく、子育てに家事に仕事と三足のわらじで運動に時間を割くことができなかったとのこと。結局、鍼灸施術だけで改善していったのですが、運動をするともっと改善したのではないかと思います。
どこまで施術を継続するかは患者さんの判断によりますが、この方の場合は卵巣が大きくならなくなって現状維持していることを確認してから施術をお休みしました。
時間が取れれば、睡眠をちゃんととって、週末は軽く運動もしつつゆっくりして、気虚にも気滞にも配慮した生活をしていれば悪化しにくいのではないかと思っています。
どんな疾患であっても、運動や睡眠、ストレス解消の趣味活動で自己管理をしつつ、たまに他力に頼って鍼灸施術をしていくのもありかなと思います。