「筋肉から分泌される健康物質の正体」を東洋医学的に考えてみた!
内分泌系の研究で、機械的に別々の働きとされていた臓器同士が、実は影響を与えあっていることが、西洋医学的にもどんどん明らかになっています。このマイオカイン発見も、世界中の優秀な研究者達が協力して成し遂げられているそう。一方で、そのような発見が成されたという記事を読む度、やはり東洋医学は凄い、という思いになります。科学的な発見は、既に東洋医学では千年以上前から一般的に言われていた事だったりするからです。今回の、このマイオカインというものの働きについても、やはり東洋医学的に言われていた事そのもでした。
運動によって筋肉から分泌されるこのマイオカインの働きのうち
「脂肪を燃焼させ」・「痩せやすい身体にし」・「高血糖を抑制する」
などは、従来から「それは運動したら脂肪は減るし痩せるし血糖は下がるんじゃ?」と感覚的に分っていたように思いますが、マイオカインがどう働いてそういう現象が起こるのか、その機序が科学的に明らかになってきたそう。それ以外にも以下の働きの機序も明らかになってきているそうです。実はこれらも、東洋医学的な理屈では自明のことなのです。それぞれ東洋医学的にどう考えるかも考察したいと思います。
・マイオカインは癌を予防する
癌は東洋医学的にはストレスや運動不足による気の停滞や食事の不摂生などから瘀血や湿痰を生み、それが長期化して絡まり合い腫瘤になると考えますが、運動は気の停滞を取り、悪血や湿痰も減らせます。癌の予防にはなるでしょう。(ただ、★東洋医学的に、ストレスによる緊張だけでなく、気血が減ってもエネルギー不足のせいで停滞すると考えます。その場合は下手に運動すると消耗して悪化するので安静が大切。つまり誰でもどんな状況でも運動すれば良いという風には考えません。下記のどんな症状についても同様です)
・マイオカインは鬱を予防、改善する
生理的に、消化吸収機能により食べ物から作られたエネルギー「清陽」は、胃腸の力や肝臓ので上昇し、脳を栄養します。そうすると、クリアに思考が出来る、と東洋医学的には考えられています。反対に①胃腸が上手く働かないと清陽が昇らないため頭がボーッとしたりしますし、②胃腸が元気でも食べ過ぎなどで痰のような物がつかえていると、清陽の上昇を妨げるため頭がボーッとします。また、③胃腸が働かずちゃんと吸収できないと、心臓が養われず不安感が出ます。また④ストレスにより熱になってそれが心臓に影響しても不安感が出ます。今簡単に四つの病理をご紹介しましたが、鬱はもっと他にも原因は考えられます。
どちらにしても運動は、胃腸も整え痰のようなものも解消し、熱も冷ますので、様々な原因からくるぼんやりした感じや不安感を解消することに繋がります。
・マイオカインは慢性炎症を予防する
運動は気をめぐらせて鬱した熱を発散させます。ここでいう慢性炎症も、熱を持っている以上東洋医学的な熱と言えるため、予防するし改善もするでしょう。とは言え、東洋医学の更に凄いところは、停滞からくる実熱と、血や水の不足からくる虚熱と、虚実両方あるとしているところ。虚熱の場合は運動もほどほどにしないといけませんので気を付ける必要があります。
・マイオカインは肌を若く保つ
老化に伴うシミやしわは気の滞りからなる瘀血や陰虚血虚が原因と考えますし、老化でなくても、例えばでき物や赤ら顔なども、湿痰の停滞や熱の場合があり、鍼をして気のめぐりが良くなると肌つやが良くなり化粧の乗りが良くなった、という事は多いです。運動も勿論、鍼灸治療と同様に気血のめぐりが良くなり、シミしわが出にくかったり、運動によって胃腸の状態が良く保てると、胃腸は肌肉を健康的に保つため、張りが保てたり瑞々しい感じが保てたりするでしょう。
以上、運動で筋肉を使うことは、マイオカインを活性化させて科学的にも良いし、気滞が取れて東洋医学的にも良いことだらけという事が分ると思います。とは言え、科学的な思考が一般的な社会において、いかに「運動をして筋肉に刺激を与えることが健康に寄与するか」が研究によって明らかになることは、運動に対するモチベーションになりますから、社会的にもとても意義のあることだと思います。いくら鍼灸師界隈が「気滞が取れて悪血や湿痰も改善するので運動は良い」と言っても、なかなか理解されないでしょうから。
東洋医学的に筋とは?
東洋医学的に筋は、肝に付随する物として考えられています。筋以外に肝に付随するものは他にもあります。
肝が支配するもの
①筋肉・②疏泄(気をめぐらせる力)・③血の貯蔵、以上三つが代表的です。その他・④目、⑤魂、胆(他にも沢山在ります)などが、鍼灸学校で習う、肝と深く関係するとされているもの。これらがちゃんと働いていれば生理状態で健康が保てますが、何らかの状態で狂うと病理状態になるというわけです。
特に重要なのが、②気をめぐらせる働き「疏泄作用」。
ストレスによって気の流れは阻害され停滞します(=気滞)。長期化すると冷えたり熱になったりします。更に長期化して気を暴走させると、出血したり内風という状態になって痙攣やふるえといった症状となると考えます。
それ以外にも④目を使いすぎると肝血が消耗してしまうと考えます。ストレスが⑤魂に影響すると夢を見ると考えます。
また東洋医学的が凄いのは、この肝が単独で働いていると考えておらず、他の臓腑全てと関係して健康を保っていると考えているところです。
脳腸相関を東洋医学的に考えてみる
それを最近発見されたもので言うと、例えば「脳腸相関」は、肝脾や心脾の関係で捉えることが出来ると思います(脳腸相関とは、ストレスを感じると便秘や下痢となるし、腸内環境が悪いと、不安感が増したり鬱になる、というものです 腸内細菌が脳の働きを決めている? 大腸の不調が脳の健康に影響する「脳腸相関」とは )。
東洋医学的には、ストレスで肝気が停滞すると脾胃=胃腸に影響して下痢(肝脾不和)や食欲不振や胃痛(肝胃不和)、便秘(気秘)となると考えます。脳腸相関の「脳」は、この場合ストレスを感じている状態のことを指すので、東洋医学的には肝気の停滞、つまり「気滞」の状態、というわけです。
また、正常な消化過程で吸収された栄養の一部(清陽)が上に昇って脳を養い、それがクリアな思考に繋がると考えますが、ストレスによって胃腸の状態が悪化するとそれが昇らず、脳がクリアに働かないと考えます(脾の昇清不足)し、また脾=胃腸は心臓と協力して心神を安定させていますから、脾が弱ることで心神が安定せず不安感などが出る(心脾両虚)、という状態になります。脾と心肝の関係以外でも、食べ過ぎなどで痰が生成されても、それが清陽を昇ることを邪魔して頭がボーッとします。

それが以下の筋腸相関と相互に影響してきます。
筋腸相関を東洋医学的に考えてみる
筋腸相関とは、マイオカインの研究で明らかになっていることだそうです。
食生活やストレスで腸の状態が悪くなると、腸壁のバリア機能が低下し吸収してはいけない有害な物質まで吸収してしまう。その時に筋肉では、糖や脂質の代謝機能が落ちたりミトコンドリアの活性が低下するそう。つまり、腸内環境が悪いと筋肉の働きが悪くなるという事が科学的に明らかになったのです。
東洋医学的に解釈しますと、脾虚や脾湿など腸の状態が悪いと消化吸収(運化作用)が上手く出来ずエネルギーを効率よく使えないため手足がだるくなことがありますし、運化作用の低下によって生じてしまう湿などの邪によって気が停滞するためだるくなるでしょう。また血の生成にも胃腸が関わっているので、腸の状態が悪いと東洋医学的な貧血となり、筋に行く血が減るため、ビーフジャーキーのようになってしまう場合もあり、そうすると頻繁につったりします。
そういう時も運動することで、気や湿がめぐり、腸も筋肉も元気になっていくでしょう。そして腸が元気になると、上記の腸脳相関にも好循環が生まれ、鬱やイライラが改善するといういう訳です。
運動の大切さ
当院でも、虚がメインの病理の患者さんでなければ養生指導として運動をお勧めしています。それは上記の通り、東洋医学的に気滞を取り、内熱を発散させ、邪実も減少させ、かつ気血が充実していく事を想定しているからです。
西洋医学的にも、例えば膝腰が痛いとか、血液検査の様々な数値が割るときに運動をしてくださいと言われていました。しかし、マイオカインの働きが明らかになる中、例えば大腸癌に運動が「処方される」時が来るかも知れないと言うほど筋肉=運動の必要性が科学的に明らかなってきています。
以前「貯筋」が大切というブログを書きました(セルフケア②自分できることはありますか?)。健康維持の為には薬や治療なども必要ですが、それと同時に「運動」が必須であることはもっと認知されて欲しいし、ここは教育改革をして是非体育の授業で「運動は気持ちの良いものだし身体に良い」と教えて欲しいと真面目に思っています。体育の授業は、競争させたり厳しかったりするので運動神経がいい人や場の空気を支配する人しか楽しめなかったりする。でも運動神経や性格に関係なく、本当は身体を動かすことは気持ちが良いし頭もよく働くようになるのです。人生100年時代、老後がどんどん長くなっていますから、運動をして健康寿命を長くしていきましょう。それでも体調が悪いときに、鍼灸をお役立て頂ければと思います。